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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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隠岐の旅 第六回

※以下、フィクションです。

記憶の抹消が梗塞しながら曾て活力を横溢させた何物かが存在した証だけが…示し合せて辿り付かぬにしても…隠岐郷土館を盛り沢山満喫した後の時刻は正午頃、小腹も空く算段と相成り見渡すと同館に隣接するもう一つの、名前は忘れたが…牛突きやら巨大魚やらの剥製と民俗を展示する施設があってその1階に小ジャレた風情の軽食喫茶があったが…団塊団体客の貸切となって本日は力を出し尽くしたのかもう閉店、一般客個人客は立ち入り禁止の立札、爪楊枝で奥歯シーシーしながら鱈腹食い終ったらしき団塊団体客がだらだら店を出てすぐ前に駐車してなるべく歩かせまいと諂う団体バスに上機嫌で吸い込まれているのだった…

どうしようもなくレンタカーに戻り…さしたる期待も持ち合わせず隠岐の島北端の景勝、白島海岸に向かう…山道を上りに上って展望台に到着。荒波に浸食された岩の剥き出しはその名の通り真っ白に輝いて晴れ渡った空の彼方海の彼方は白く霞んで見通せない。波の音掻き消す風の音がどっふどっふ吹き上がる。


 

 
離島への意識が高く…


風雨に散散吹き晒されてカラカラ鳴る骨のように侘びた鳥居の先に社は無い、季節にまかせて変幻する日本海自体が御神体か。





展望台下の駐車場近くには運動会で仮設されるテントのような簡易建築のつまらん土産物屋がある。やる気の無い…何となく景勝地に来た客のみを当てにした売店には乾物系の土産と、おむすび三ケと沢庵二切れを詰めたパックが木漏れ日に晒され…当然ながら客は小生一人、店員は女性二人である。こういう、半ば商売を「投げて」いる、寺社や景勝地に寄生しながら細々と案外執拗に生き残る土産物屋にこそ、意表を衝く珍品が埃かぶって根強く存在するのであり…小生すかさず目利きを施し、レジに持って行く。淡紅から朱へ移るグラデーションが美しい檜扇貝に電球を接着剤でくっ付けた馬鹿馬鹿しい乱暴趣がそそられる照明具が鬼太郎人形たちの間に無造作に転がっている。店員二人まじまじ顔を見合わせ、「まさか売れるとは思ってなかった」以前に「これが売り物とは知らなかった」といった狼狽と困惑、値札は当然ついていないから値段が分からぬ様子、しばらく二人して店のノートを捲っていたが埒が明かないのだろう…400円と相成った。小生が読書灯に供している盆灯籠は光量少なくスイッチも無いから日々不便が募るが、この檜扇貝ライトは、光量は同じく足らぬがスイッチが付いているのでその分重宝している。

白島海岸へ向かう途中に「隠岐蕎麦」なる看板を見つけたので、当海岸からの帰りに蕎麦でも手繰ろうかと…しかし看板を頼りに現地に行ってみると店というより蕎麦の実の加工工場の、何だか捨て置かれた、廃業した工場独特のブスついた沈閑風情で、そしてまた例によって人っ子一人居ない。完全に食いっぱぐれた小生、白島海岸のおむすびでもゲットしておけばと思うても後の祭り、腹は激減りなれど飲食店皆無。

行く当ても無く、午後3時にはどうせ行く予定の黒曜石店がある久見港まで下るが閉じ切った民家のみで飲食業の気配皆無。無駄に混乱して目先の看板に喰い付いて「ろうそく岩展望台」にまで無意味に誘われると途方も無い山道に誘われ遭難しかけた。舗装はされているが離合不可の細道をぐいぐい上り下り右へ左へ湾曲と見知らぬ分かれ道での選択をあみだ籤のように繰り返した挙句…路上には落石や太い枝が散乱、無我夢中でいつのまにやら展望台入り口の行き止まりに着くが…当の景勝奇岩がそこから徒歩で5km先にあるという…這う這うの体で車で帰路を爆走…ちなみにこのレンタカーにはカーナビがあるが、いろいろとタッチパネルを押しても小生の未発達なデジタル勘では行先設定出来ず、せいぜい現在地表示どまりだが、結局最初から最後まで地名など一切表示されず…道と山林しかデジタル表示されないから何の役にも立たなかった。頼りになるのは観光協会から貰った、大雑把過ぎる地図のみである。無論、今走っている場所は地図には記されていない。どうにかこうにかひょんな事に知っている道にまろび出て…五箇方面なら飲食店があるかもと思って孤走しても行けども行けども何も無し、もう飯は諦め…寂しすぎる海岸沿いに出てしまうと、行き止まりである。



奇しくも、「福浦トンネル」という…日本土木学会が推奨する「土木遺産」。車を止めて、ガードレールを跨いで磯辺に下りると…海岸沿いを南下するために先人が手掘りした隧道がある。見た目軽石のような多孔質で、脆い岩質…掘削の苦労と、妥協せぬ丁寧な仕事ぶりの昔気質を芬芬感ずる。…四角い穴の先に見える掩蔽壕じみた列柱がグレコ・ローマンスタイルの、小さな地中海である。折よく干潮、海藻やなんかが打ち上げられ、個室風の窪みに異形の赤黒い貝が納まる…晒された磯辺でひとしきり遊んで車に戻り再出発している矢先…電話が鳴る。黒曜石店主である。店に着いたとの報告である。急ぎ参上すべく車を飛ばし、午後3時10分頃には店に着いたのであった。


久見港に車を止め、しばし息を整え…黒曜石店に向かう。引き戸をグアラガラッ。すると、やはり、ながら…一癖ありそうな長髪無精髭の中年男性が魔法瓶から湯を紙コップに注ぎ入れており…インスタント珈琲の香が、土臭い作業場の一角にか細く立ち昇る。出入口付近の、石埃が舞うソファに座るよう黙って促され、ざっかけない素振りで珈琲を渡される。そして店主の開口一番がこれである。
「隠岐の島はパリ・コミューンよりも早く独立国家になったんですよ」
これは何とも穏やかではない…出会い頭でも容赦無い、問題意識剥き出しである。小生が何処から来たのか云々といった、他人との距離を宥和する誤魔化しの無駄話などすっ飛ばして一挙に間合いを狭めてくる攻めの姿勢である。さすがに小生も一瞬たじろぎ、言葉の接ぎ穂が途絶えるところへ店主は構わず一方的に話を繰り出してくる…
店主「隠岐は江戸時代の終わりにひどい飢饉があって、200人近く餓死したんだけれども、隠岐を管轄していた松江藩に援助を要求しても米一俵もよこさなかった。だいぶ後になって鳥取の池田の殿様が隠岐の島に米を送ってくれて助かったんだけども…それで、島民が一揆を起こして藩の役人を追い出し、明治初頭までは藩や中央政府の支配を排して独立していたんですよ。」
小生「松江の人はちょっと冷たいといいますし、茶の湯三昧の松平家だから農民への気遣いなんか及びもしなかったんでしょう。パリ・コミューンは1871年の、日本でいえば明治の初めだから、そういう意味では確かに先進的だったかもしれませんね」
店主、不敵に眼を光らせて「詳しいですね」
小生「そう云えば、さっき行ってきました隠岐郷土館に、明治の初めに隠岐の島で凶作による飢饉があって、政府の郡代を島民が追い出した、という記述がありました。その時の指導者の肖像画があったのですが名前は忘れてしまって…」
店主「そうそう、その一揆の指導者は若い頃島を出て、各地を遊学…、そして島に帰ってあの惨状だったから…それにしても昔の人は広い視野と知識を持った上でいざとなれば行動する芯の強さがあったんだ」
小生「江戸時代も中ごろまでは、いわゆる全藩一揆、今でいうゼネストを定期的にきっちりやっていたようですよ。藩の役人にばれないよう隠密に、5年、10年がかりで緻密に段取りを練り上げて、全藩一国の農民総出で一揆するんですよ。一揆に参加しなかった農民の家がまず真っ先に放火されるから参加せざるを得なかった背景もあるかと思いますが…ただ、要求が通ったとしてもだいたい首謀者の処刑は免れないから、相当な覚悟を以て計画したのだと思います。幕末に近づくにつれて一揆の起こる頻度は急激に増加するけれどもそれぞれの一揆の規模は小さくなって無計画に乱発されるようですけども…隠岐の一揆の首謀者はどうなったんですかね」
店主「参加した島民は全員鞭打ちで、首謀者は島から追放されたよ。それで、その指導者は縁あって奈良の十津川に渡って、そこで文武館という学校を作ってね。今は十津川高校になってて、今でも隠岐の島と交流があるよ」
といって店主が見せてくれたのは…一抱えほどある、達磨形の、よく研磨された黒曜石の石碑であり、十津川高校創立百云々年記念、と刻まれており、虹色の貝殻を象嵌した校章がぬめり黒い黒曜石に映えている。奈良のその高校からの依頼で、店主が作製したとのことであった。

小生が、もっと対話を深堀すべく話題を広げて「明治の、たとえば秩父困民党事件もパリ・コミューンと同じくらいの時期だったか、警察権力を追い出して…」などと調子づいていると、ガラリと戸が開いて熟年氏がぶらりと入ってくる。元教員で、地元の郷土史家であるとのことである。この郷土史家の人が仲介となって、奈良県の高校の石碑が注文されたとの事で、この方は石碑の製作を確認しに来たようだった。今晩も飲む約束をしつつ、既に完成した石碑を前にして満足そうな郷土史家を捕まえて店主「ちょうどよかった」と、歴史談義の火に油を注ごうと構えた矢先、郷土史家氏は、見慣れぬ客の小生の出身を尋ね…
小生「○○から来ました」
店主「ああ、そのあたりならよく知ってる。ちなみに、呉とか安佐北あたりにも黒曜石は採れるんですよ。あまり公表されて無いけど」
小生「ええっ、これは灯台下暗し」
郷土史家「隠岐には観光で?」
小生は断言する。「いえ、専ら黒曜石を手に入れるためです。」
黒曜石の語が静電気となったのか、普段から付き合いの深いであろう店主と郷土史家との間で黒曜石形成に関わる古生代あたりの話題で炎上、なおざりにされた、曲がりなりにも客である小生など意に介さず、竜巻のように直情的に盛り上がり手が付けられぬ展開となるが…小生の目的は黒曜石である。

図らずも、離島の宿命を背負わざるを得ぬ、隠岐の島に底流する、本土では殆ど顧みられる事の無い暗黒の反体制史、人間の独立と尊厳に根差した反骨の気概溢るる対話が繰り広げられたのであり、この僥倖には旅先ならではの興奮と感謝を惜しまぬが、…しかし、何とか小生の目的にまで話を戻すためには、彼らの会話の腰を折る野暮も辞さぬ。
小生「あの…レンタカーを午後4時までに戻さないといけないので、そろそろ黒曜石を見せて欲しいのですが」
すると地質学的話題に躍起になって周りが見えなくなっていたと思しき店主と郷土史家、しばしきょとん、として小生に目線を集めると…
店主「ええっと、どんなのがいいんですかね…たとえばこんなのがありますが」
といって店主が取り出したのは、蛤ほどの大きさの、グラインダーでつるつるに研磨されてまるまるした黒曜石に、夜光貝で、どこぞのキャラクターを象嵌した「土産物」であり…古代の黒曜石のナイフや鏃に見られるような野性の賢さが光る鋭利さが無残にも潰された、軟弱な代物である。最近は出雲大社からこの手の発注が多くて繁忙を極め、だから売店はやめて受注生産に専念しているらしい。
小生「いえ、こんなのではなくって…古代の打製石器みたいな、断面が鋭くて切れるほどで、大きさは掌くらいのサイズ感なのがほしいのですが」
店主「ですよね…ちょっと探してみます」
○○から隠岐の島まで、有限無常なる人生の時間を費やしてわざわざ島の最果ての作業場まで直接黒曜石を買い付けに来る目的意識の高い人間が、店主が糊口をしのぐためのものであるのは察するにしても、かような土産物如きを欲しがる筈も無い。その事を感じ取った店主は、床に転がっている黒曜石の原石を物色するがしばらくすると、
店主「割りますか」
小生「お願いします」
店主「ただし、掌くらいの大きさに割るのは難しいですよ。断面を鋭く割ろうとしたら、どうしても小さい薄片状にしかならないんですよ」
という技術的見解を述べるから小生も納得する。店主はその辺の原石を掴むや、床に置いて、金槌で一撃した。
小生、すかさず値交渉、「この塊と、この欠片二つ合わせて、いくらになりますか」
店主「まあ、二千円でいいですよ」





早速新聞紙に包んでもらって支払いを済ませ、時間がないので挨拶もそこそこに黒曜石店をあとにしたのであった。こうして、念願の黒曜石を懐中に愛でるに至ったのである。この、両生類のひくひくする下腹の如き、湿ったヌメ感…硯に摺られてぴかぴかに照る油煙墨の断面…今はかちかちに固まっているがそれでも、油煙墨が練り込まれている過程の、まだ柔らかく、湯気が立つほど温いぬるんとした粘り気を髣髴とさせ…何とも妖艶なる漆黒の断面のヘリは飽くまでも、無用意に触ろうとする者の手を切る問答無用の鋭さであり…潔くかち割られた、永遠に新鮮なるその断面には…太古より秘蔵された波紋が暴かれており、塊にも片鱗にも凍死したその波紋の形でぴたりと合わさり、今にも再度吸い付いて生命体のように密着しそうなほど、静かな光がしとどに濡れている。そのままこの黒曜石が…すうっと、音も無く、小生の心臓に格納され…脈動しつつ、臓器を間断無く内部からずたずたに事ある毎に傷つけるだろう荒みを宿して…



殺伐としながら何かしら遠くまで見渡してしまったかのような、腑に落ちる充実というか、未だかつてない奇妙な感情の余韻に浸りながら…車をブッ飛ばして、それでもレンタカー屋に戻る途中で玉若酢神社を緊急参詣&排尿、御神木のつっかえ棒を拝んだ後、ガソリンスタンドでガソリンを満タンに戻し、レンタカー屋兼便利屋に車を定刻の午後4時まで戻したのであった。駐車場脇に赤黒い多孔質の火山岩をごろごろ、獰猛エクステリア趣味なのか配しているため入れにくい駐車場であった。赤熱してはち切れんばかりの対応力の果て…空腹も忘れて気忙しい呼吸の熱の冷めやらぬ汀…この旅の目的はとうとう達せられた…海から離れ海に寄る波の音は聴こえずして、黄昏の鱗雲から響き渡る。レンタカー屋で車を返した後、そのレンタカー屋の親爺さんに、西郷港前のホテルまで送ってもらう。車中で会話となるが小生はなけなしの勘を働かせて相槌に精一杯、彼が何を云っているのか全く理解できない、それほどまでの早口と奇妙な発音、方言である。ホテル前に着くと、途端に、どっと腹が減る。午後5時くらい、飲みに出るには微妙な時刻である。

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