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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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隠岐の旅 第四回

冷めた記憶というある種の死体を舐め続けるような耐え難い痴愚沙汰を続けなければならぬ程悠揚迫らざる事情など皆無、最新の記憶にさもしくガッ付きたい、たとえば縁あって生漆を箆で練り上げる実践や金継ぎの伝授を受けてしまい眠り呆けていた野心の鷹の爪にボウッと点火、そそられる創意の油が絶え間無く継ぎ足される心の炎上でまた不眠を託ち、日中は悪心(おしん)の倦怠に苛まれ湿った布団でぐっとりする肉塊へと成り果てる始末、…来年3月になったらこっちの現代美術館に赤瀬川原平の回顧展が巡業しに来るから参じたい旨心に刻む振りをして殊更にもう、ほとほと嫌気がさして、隠岐の旅を遠ざけたい、疎ましい気持ちが確かに鬱積、台所に溜まる洗い物を横目に通過する後ろめたさにまで生活臭が浸み付いており堪え難い、それでも一度始めたらやめられない性分などといえば恰好良いがそれも嘘、ハードロック論だってまごついている現実もまた…

※以下の文章は全てフィクションです。

秋晴れの国賀海岸を自転車で下り、九十九折の上り下りと曲がりくねったカーブで方向感覚を一掃されながら海岸の風光を楽しむ…

 
目的地への標になってくれた希望のトンネル。誰も居ない…


西ノ島のくびれに掛かる橋の上から。行きはこの橋に辿り着けずに寂滅なる入り江の果てにまで辿り付いたのであった。


旅人を誘うコスモス畑…息の上がった体を休める。

ようやく別府港に着くとフェリーが車輛の乗降作業中で俄かに港が活気づいていた。離島の物資の命運を一身に担うのがこのフェリーである。後刻、港の酒場で一杯やっているとビジネスでしばしばこのフェリーを使わざるを得ない業者が車輛積載費用が嵩む云々と愚痴が止まらない様子だった。時刻は午後12時50分くらいか。やりつけぬ運動で健康的な空腹を覚えるもやむなし、眼前の、港ターミナル2階の古びた軽食喫茶に飛び込むと、既にダルな雰囲気に仕上がっており…入口付近には作業服の業者男4人が小さなテーブルに日替わり定食4人分を乗っけた樹脂盆でぎっしりと無言で、カウンター席には爺がビールと芋の煮ころがし、体を横にしないと通れぬ幅の通路を挟んで向かい側のテーブルには婆がビール且つ煙草…他のテーブルには熟年女性とその娘と思しきジャージの茶髪サンダル三十路後半女が他に行き場がないから休憩がてら必然的に辿り付いた的な経緯が濃厚…速攻で喰い終わった業者の一部はごついガラスカット製灰皿を寄せて珈琲を頼みつつ煙草の狼煙を上げ狭い店内はたちどころに鄙びているが腐った脂のような紫煙(パープルヘイズ)に噎せ返り、煙草を嗜まぬ小生は目が浸みる…昼間からアルコールで目が血走る婆がしゃがれ大声で間断なく向かいの爺と世間話に興じている…旅人風情の小生は奥のテーブルについてビールと日替わりを注文しつつ否応無く耳に入る島事情の荒み具合に耳をそばだてる羽目に…島の男どもも定年や引退を迎えてしばらくはクルーザーなぞを購入して何かから目を背けるようにして遊びの釣りに躍起になっていたが最近はようやくおとなしく家に居るようになってきたよ、といった熟年事情の袋小路にまつわる具体的な事例である…日替わり定食は不味かった、特に、昨晩の宿の晩飯、朝飯に続いて出された烏賊の刺身は真っ白にねっとりと糊のこんにゃくみたいで不味い。ビールだけは何処に行っても裏切らない、ビールを主食として小生に寄生する喉仏に存分にビールを飲ませてやる。高校生らしきバイト娘に勘定して店を出る。

小生のもろもろの思索を貫く幾つかの筋と云うか線というか、それは一つに束ねられるものではなく幾筋も絡み合いながら決して解消される事はなく織り成される混沌ではあるが時として紐解いてみるに行き当たるのが「修験道」ではないかと。ここで詳らかにする必要はないので題目だけ上げると小生の目下の主題の一部として「市井の仙人」「都市の修験者」「来るべき書物」があり…神仏習合、本地垂迹はこの国の文化の一側面に過ぎず…より根本的には(「根本」は仏教用語だが)道教、仏教、神道の三教が混然と沈潜し、この国の歴史と政治と文化の地脈として縦横に走り廻った「修験道」こそに著しくそそられるのであり…そうしてみれば自ずと中世最後の突破者、後醍醐天皇の成り行きと勢いが、当時の修験道勢力を軸としていた事の本質に自ずと必然するのは典型的ですらある。巷の悪党や異形遊行の者どもを寄せ集めては、いかがわしい生臭坊主の文観に唆されて、修験道と血流が往還する密教勢力が三文週刊誌の袋綴じレベルにまで俗化しつつ奇怪な荘厳を遂げた乱交教団立川流に耽溺した後醍醐が挙兵後、南北朝という時代を打ち立てて修験道勢力の総本山吉野に立て籠もって後も(思えばこの国は「総本山」だらけである。中心の点在化、勃発化…)、隠岐配流→脱出後も岡山の児島や鳥取の大山といった修験道勢力と呼応する…普段は政治の及ばぬ山野を跋渉して暗躍する修験道の、数少ない顕在化としてこの、後醍醐という希代のウツケ皇族が発光信号=救難信号を送るようだ…そんなわけで…この西ノ島に残る後醍醐帝の黒木御所跡で現地調査に及ぶ。港から自転車ですぐの処にある。門をくぐると…その辺で暇を持て余して海を眺めていた熟年男氏が、小生の来訪を発見するや、何やらそわそわした動きで小生の動きを、小生から気取られるまいと意識しながら、激しく注視している…小生にしてみればだいたい分かっている。この御仁は、黒木御所跡地に併設された資料館の館長にしてただ一人の係員である事を…後で待ち受ける成り行きが強く予想されるので些か辟易しつつひとまずその館長の挙動は無視して、まずは黒木神社で御在所の跡地に参るべく、石段を上る…後醍醐帝を祀るこの神社の作りは比較的新しく、とりあえず記念に作りました的な上物に過ぎず、歴史的に何の意味も無い。神社脇になぜか、日露戦役の旅順攻略に使った大砲の弾がある。社の奥に、黒木御所跡地を示す石碑が、木陰の湿り気の中にそらぞらしく建つ。見るべきはさほどなく、参道を下りて、気押されるような諦念に漸近する期待感を下地にして隣接する資料館「碧風館」に入る…入口には満を持して先ほどの熟年氏即ち館長が一人、拍子抜けするほど安い入館料を支払って館内を見渡すと、せいぜい八畳くらいの広さ…中央のガラスケースに、中世から江戸後期、明治までの古文書の類、壁面には絵心のある島民が描いた後醍醐伝説の各シーンの絵画の数々…やまと絵や日本画や油絵だけでなく、ちぎり絵で後醍醐を描いた力作も寄贈されておる。無言でそれらを一つずつ眺めていると傍で手持無沙汰の館長がついに口火を切ってきて…マンツーマンの、地味ながら熱い講義が始まる…最大の見所は後醍醐帝宸筆と云われる、三種の神器の処理に関わる綸旨であろう。後醍醐帝が滞在した各地が「黒木御所」と呼ばれ今もその跡地が各地に確認されているが黒木とは木の皮も剥いでいない粗末な雑木の材の事、それほどまでに粗末な在所であった事を意味するとの事、などしっかり学ぶ。黒木という苗字の多い宮崎の事も少し思い、…恐らく上代からある古語だと小生、推察する。明治以降、本土の学者が来て学術調査した結果、西ノ島には後醍醐は来ていない、黒木御所は島後の国分寺近くにあったという結論になって島後の隠岐の島町にも後醍醐の石碑があるが、西ノ島の島民は数百年に渡って此処が黒木御所だと信じてきた手前、学説には耳を貸さず今もこの地を顕彰している。何を学んだかというと掻い摘んだ言葉にはならず…何となく雰囲気を味わっただけのナマ学問の誹りを免れぬかもしれぬが今は後学の実りに託すより他ない。

綸旨の宸筆(後醍醐の自筆)。堂々、風格ある書体である。ちょっと紙が新しい気もするし、出雲大社蔵とあるのもなんだろうか。
 
後醍醐像と、黒木神社奥の石碑の拓本。隠岐の島の著名な書家の揮毫になるものとの由。
碧風館を出て、さらにその近くの、西ノ島の郷土資料館的な処も訪れる…最大の目的物である古代の黒曜石の鏃や、光悦の赤楽に匹敵する軽妙なる丸味を帯びた須恵器碗、漆を入れていたという長頸壺といった興味深い出土品…千歯こきや田打ち車、烏賊伸ばし器といった古民具…目をひいたのは郷土の博物学者が蒐集したという珍鳥類標本であり…ぞんざいにジッパー付きビニールに入れられて転がっている。


光悦を思わせる須恵器碗…極めて薄作りで、手練れの陶工の作とお見受けする。
 
烏賊伸ばし器

西ノ島の鳥類標本

おなかいっぱい郷土資料館を味わい…それでも17:00出航のフェリーには時間たっぷり、港の中で海を眺めながら老子を摘み読みつつ…近辺の土産物屋にも、骨董と呼ばれるほどの時間は経っていないが数十年程度は埃を被って古格を帯びた民芸品や木工品などを期待したがそうした物産は皆無、せいぜい乾燥海藻や酒ぐらいしかなく…ようやく、定刻に出航、島前の別府港から、島後の西郷港に向かう夜の海。昨日とは打って変わって穏やかな波である。

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