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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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「the beach boys/friends(1968)」 2008年10月19日 大安  神無晴

thebeachboys.JPGthe beach boys/friends(1968) tocp-53173
 スーパー銭湯なる昨今の後楽/行楽施設に出かける。不躾で厚かましい最新の日本車で駐車場がいつも埋まっている様子を横目に、大衆の率直な欲求を疎ましく思う反面、広々した風呂で手足を伸び伸びと棚引かせたい願いが冷めやらなかった結果である。茶室兼自宅の賃貸アパートメントの、屈葬じみたユニットバスも、最低限ながら湯の快楽を与えてくれるにしても、効能あらたかな温泉への希望は捨てきれぬ。たとえ地下100m近く掘りまくって無理矢理湧出させた地下水をボイラーで追い焚きした湯であっても。さりとて入ってみると至れり尽くせりサービス三昧。肥満している醜女(しこめ)とはいっても齢23くらいの女性従業員が男湯の脱衣所や風呂内を掃除して歩くのは、最早幼児とは言えぬ性徴ぶりが見え隠れする女子がお父さんと一緒に男湯に入って来るくらいの違和はあったが、そのおかげなのか清潔であり好ましい。内湯面積の75%は流行のバブリング風呂である。

 風呂とは、湯口からどべべと湯が散り落ちる賑やかさが、波紋に化身しては湯船の縁に近づくにつれ清明に静まり湯気のみが上がる様が、日本の豆腐に比肩して美しいのに、八方から水流やら気泡やらの集中砲火を体に向けるとは無粋なことよ・・・と疑念持ちながらある期待をもってバブリング風呂に収納されると、おうおう、ほぐすほぐす。運動不足による腰痛の肝要な部分を、指のような、ともすれば痛点を刺激して止まぬ直接的物質とはかけ離れた波動によって全的にしだいてくれる。露天風呂も堪能。サウナに挑戦するも、サウナは湿度100%の熱気の密室中で男たちが黙ってうなだれている様がより熱さをかもすというのに、正面にテレビなぞが喧しくニュースしていて、煩わしく、サウナの中の男の孤独も許さぬ大衆とマスメディアの厚顔ぶりにほとほと嫌気がさす。湯から上がれば食堂もあり、その気になればビールをぐび呑み出来る上げ膳据え膳であるが運転しなければならぬのでここは我慢一徹である。総じて大満足の私であった。

 湯という日本語はそれだけで優しいが、湯冷めという言葉の笹の如き優しさにしばし物思う一夜である。隅無きのみでない月がぽってりと浮かぶ。ほてった体に当たる初秋の涼風の心地よさもさることながら、当たりすぎを気遣いもするさりげなさが、この言葉がある限り人に心を配るのである。

 湯冷めを気遣う者に相応しいアルバムは、ビーチボーイズの本作をおいてあるまい。ビーチボーイズのペットサウンズやスマイリー・スマイルは1年がかりで論じても足りぬ大変なテーマであるし、作った方も聴く方も構えなければならぬゆえ今宵には相応しくなかろう。アルバムの事情や楽曲の詳細はライナーノーツに詳しいのでそちらを参照されたい。60年代初頭において最もヒップでポピュラーなアメリカン・グラフィティ/サーフバンドであったのが、既にリフはおろかドラム/ベースのリズム隊といったロック演奏の様式からも逸脱してしまった超絶ぶりは、ここにいたって、和歌の形式/連歌の約束から、まるであっさりのように(本当は理論及び実作上の紆余曲折あるが)古池に飛び込んだ蛙の如く誕生した俳句のような簡素、軽みである。ハイネの詩集のごとく他愛ないが友愛とヒューモアに満ちた歌詞が人に対して率直に親しく、しかしとんがりもせぬが単調では決して無い丁寧に凝ったアレンジで歌われてしまう普段の野趣を湛えている。こんな音楽はわが国ですらないし、ビーチボーイズ/ブライアン・ウィルソンの仕事は全く突然変異であるが、アメリカという土壌には突然変異が、一人ではなく次々と生まれる必然があった。いずれまとめられるであろう「アメリカ音楽の点在する系譜」で詳しく論じたい。

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