ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「frank zappa and the mothers of invention/we're only in it for the money(1968)rykodisk rcd 40582/3」 2009年3月8日 呆春
仕事帰りの夕方、運転中に、道路わきに、野生の鹿が立ちすくんでいた。サバンナのインパラや春日大社や宮島などの観光地の鹿のようなほっそりさは無く、その脚は農耕馬、あるいはばんえい競馬のような野太さで逞しく、体つきも筋肉が盛り上がって毛並みも傷だらけの荒々しい鹿であった。ビュンビュンと大型車両が剛速する道路なので、危ないな、と思った。その二日後、同じ道を通ったら、二日前にその鹿の居た場所で、その鹿が轢死体となっていた。全く移動せずに、そこで轢死したようだった。運転中なので一瞬しか見えなかったが、出血夥しく頭部は潰されている模様であった。目眩のような衝撃を受けて、それでなくても季節の変わり目、移ろう風物のいちいちが欝を過敏に深める時期であったので、耐え難いものであった。同日、また同じ箇所を車で通ったら、鹿の骸は片付けられており、どこぞの高校の陸上選手らしき黒人がランニングしていた。もう訳が分からない現実である。
さて、マザーズオブインヴェンションのサードである。サイケデリアの金字塔。過去にこのアルバムについて書こうとして挫折を余儀無くされたが、状況は今も変わらない。特に今日はいつものように脱力脱気している小生にこのアルバムと隅々まで相聞することは不可能であるが、しかしこの相聞し難さは何も小生由来のへたりのみに起因するのではない。このアルバムとサージェントペパーズとの因縁は一般的に有名なのでここではコメントしない。当然ながら、アルバムタイトル「俺たちは金のためだけにやっている」の「俺たち」とは、ビートルズのことである。ちなみに、カフカの「流刑地にて」を読んでから聴け、とジャケットに書いてある。
それよりも重要なことは、このアルバムに漂うどうしようもない淋しさ、元気の無さ、あるいは低調な造りである。無論それは、作としての駄を云うのではないばかりか、サイケデリアの根本を奏で得たロック史上の稀少を証し立てた。この低調は、サイケデリアにありがちなアンダーグラウンドの闇への安住や吠える野蛮とも異なる。異様に影のない野原で見た目にも可愛らしく小さく咲いている食虫植物が人間の指を咥えているが如き禍々しさ、といっても違うだろう。決して凶暴でないとは云えぬ。おとなしいし、時に親切かも知れぬが、痛みを知る必殺の暴力をいつ繰り出すか分からぬ備えを感得させるのである。
楽曲の作りは出鱈目な集積回路のように精緻極め、歌詞もアメリカ文化への、薄汚さも厭わぬ痛烈な批判に満ちているであろう。荒々しいバンド作品も時にやるマザーズの中で、この精緻さはザッパ山脈でも3本の指に入るレベルである。しかし、何かしらぐったりとした、でも重くない軽い明るい疲れが憩っているのである。この集積回路はクリームチーズの基盤に馬の毛を松脂でくっつけたような屈託無い無茶な稚拙であるにも関わらず、アポロ計画の制御装置を担いかねぬ異常なる高度技術を成しながら、勢いはへたばっている。肉の臭いがプンプンするザッパの他の作品群の中でも珍しい一品である。ジャケットからも言えるが、腐った野菜のような作品である。悟りや贖罪とは程遠いあきらめを草枕に眠るサイケデリアの本来と、到達すべき極が、ここにある。
取り合えず、どこまで信用していいか不安であるが、小林秀雄を参考書として本居宣長を読むにつけ、宣長は、古典を、いかなる場合であっても過去の物でしかない作品なるものを、方法や形式、影響といった概念で解釈することを強く否定しており、こうした有り様はサイケデリアと小生との関わりでも寸鉄のように響いている。もう、音楽を、影響、という言葉の暴力で殴り付ける自分の無神経に、うんざりなのである。宣長が言う好信楽、即ち好んで信じて楽しむ、といった境地に、小生はまだそれをあまりに素朴で平易で馬鹿馬鹿しく思う蟠りゆえについてゆけぬが、まだ宣長を全部読んでいず、勉強中です。以前、サイケデリアに関する形容詞を羅列したが、形容詞は何も構築せぬので理論的誤謬を指摘しようも無い無責任ではなかろうかと小生懐疑的であったが、美的判断は体制に包摂されているようにみえながら結局は好事家的無責任なる遊行に過ぎぬのだから音楽を語るにもってこいなのかも知れない、と自分を甘やかしながら、重要なので今一度、サイケデリアの概況を列挙しておこう。⑳番と関係するのか、本作品の歌詞に、パンキーフラワー、なる珍妙な言葉があった。パンクとサイケデリアに断絶を見る小生の自論を揺るがす言葉である。
①この殺伐。
②すさんだ感じ。
③ささくれ立った感じ。
④ヨーロッパでは生まれぬ、アメリカ大陸という土地に根差してこそ生まれはしたが影響
は受けぬ白人の新種のキチガイ。
⑤徹頭徹尾白人的なキチガイ。
⑥変態。
⑦絶対に品は悪い。下品。
⑧アメリカ砂漠性の乾き。
⑨凶暴。
⑩虫が肉を食うようなおぞましさ。肉に対する昆虫上位。
⑪なりふり構わぬ。
⑫文化や自然に根差しながらも、継承性、遺伝性が無いキチガイ。
⑬男たちの顔が皆、異なる。
⑭反ロマン主義的キチガイ。
⑮継承性はないが各地で突発、点在するキチガイ。
⑯錆びてこぼれた、切れ味の悪い刃で生きた肉を切ろうとする無謀。
⑰知性よりも痴性。
⑱普段は眠っていそうな、家畜を屠殺するように人に対する禍々しくも平和なキチガイ。
⑲陽だまりで穏やかに憩うキチガイたち
⑳フラワー
FRANK ZAPPA :Guitar, piano, weirdness & editing
BILLY MUNDI :Drums, vocal, yak & black lace underware
BUNK GARDNER :All woodwinds, mumbled weirdness
ROY ESTRADA :Electric bass, vocals, asthma
DON PRESTON :retired
JIMMY CARL BLACK :Indian of the group, drums, trumpet, vocals
IAN UNDERWOOD :Piano, woodwinds, wholesome
EUCLID JAMES MOTORHEAD SHERWOOD :Soprano & baritone saxophone, all purpose weirdness & TEEN APPEAL
SUZY CREAMCHEESE :Telephone
DICK BARBER :SNORKS
PR
この記事へのトラックバック
トラックバックURL
この記事へのコメント