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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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「penderecki/utrenja, the entombment of christ(1971)bvcc-38303」新世界忌


 割れてしまった高麗彫三島の盃。思えばこうなることは分かっていた。弘法市で井戸茶碗の紛い物をお助けしたおり、店主の因業婆さんからおまけで貰ったこの三島、お助け当初から 存在した、高台脇の釉薬剥がれも気にならず、柿色の土焼けを見せる、月食形に削り上げた非対称高台もさることながら、割り切れぬ生活苦の懊悩が染みるヘドロ色の緑青が時折異常な赤みを帯びつつ透明に流れたような釉の 回転を否応なく加速させる白泥の菊花日輪紋は草臥れ果ててその古格たるや飽くまでも堂々…

 重用に重用を重ね、時に八丁味噌や酒盗、烏賊の塩辛やコノワタなぞの肴を載せるかと思え ば、当然ながら澄み酒を満々湛えることもあり、小生を泥沼の、怒りの深酔いへ誘う、かけがえのない心の友であった…そして割れた。予感はしていたのだ、たとえば細君が、不安定に積み重ねられたお椀の上にこの三島盃を載せているのを見た時、危険よの…と思っていた。

 この低級のお椀どもが何かの拍子に崩れた時、真っ先に破壊されるのがこの三島ではないか…。しかしそのこと をきちんと細君に注意する確固たる目的意識が実行される前に、消えるように萎えて、言えなかった…こんなことが何度もあったのだ…ある日、胸騒ぎがして、これが最後かもし れないと思い、酒肴を楽しんだ後、いとおしむように丁寧に自分で洗った。そしていつもの、洗った食器を乾かす樹脂製の籠に入れておいた。少し元気がある時は、こういう場所は危険だから、抹茶碗と 同様に、他に設けてある小生の名物部屋(本陣)で速攻でお休みいただくのであるが、無意味に気が抜けて、危険を承知しつつ、その、食器の雑居房に放置してしまったのだ。

 翌朝、が しゃああん、と、食器が崩れる音が聞こえた…半分眠りの中、ああ、終わった、と気づいた。引き気味の態度で細君が、言いにくそうに小声で、三島が割れたことを尻すぼみに伝えて来 た。案の定、不安定に高々と積み上げられたお椀の上に三島を置いた時、崩れ、三島が真っ逆さまに床に叩き付けられた結果、割れたというのだ。すべて、予感していたことであった。結果を承知しつつ、心の虚ろにびょうびょうたる風が吹き抜ける感は拭えぬ…。

 しかし、転んでも只では起きぬ小生。早くも数寄心がむくむくと赤熱して鎌首をもたげるではないか…。「継ぐ」ということ、である。金継ぎや溜め継ぎなど、茶道具や古陶磁において、割れ た部分の継ぎ目を漆で接着して金銀を蒔くことで継ぎ目を繕いつつ鑑賞したり、あるいは釉薬と同じ色に漆を調色して繕う共直しなど、常道である。これを楽しまぬ法はないということで、早速 金継ぎ屋を探し、さしたる情報もないまま目に叶った職人さんと連絡を取る。小生から、素人の夢想無鉄砲のままに第一案から第五案まで提出、見積もり額や技術的なことについてメール で根気強く交渉を重ねた結果、以下の案で進めることで決着した。

 ・器の内側の継ぎ目を、金継ぎ(消し金)で、稲妻のように、直線的に仕上げる。
 ・器の外側の継ぎ目を、錫(スズ)継ぎで、時雨のように、曲線的に丸みをもたせて、流れるように仕上げる。琳派を意識して。
  ※単純に継ぎ目を繕うのではなく上記のようなニュアンスを表現するために、継ぎ目に接した釉薬の一部を控えめに剥がして漆で下地をこしらえ、鋭い直線や丸みのある曲線が表現 できないか試す。銀継ぎの方法もあったが、釉薬の色味との調和を考え抜いた結果、あえて渋めに錫を用いることにした。
 ・高台脇の釉薬剥がれの部分には、螺鈿をほどこす。曲面なので螺鈿用の貝を細かく割って、隙間なく敷き詰める感じに仕上げる。雨後の水たまり、あるいは異次元への入り口のよう になれば。
  ※螺鈿と釉薬の境界には、貝の接着の必要性から、漆の縁取りをごくわずかに残すことになるが、この部分の仕上げは職人さんの感性に任せる…
 
 陶器の直しで蒔絵をほどこすのは、たとえば織部の伊賀水差し「破れ袋」の写しとして、川喜田半泥子の伊賀水差し「欲袋」があるが、螺鈿という技法を使うのは、これが世界で初め てではなかろうか…と勝手に自負している。本日、三島を発送、三か月の納期が待ち遠しい…。

 上述のことで頭が一杯なので、今宵はポーランドの現代音楽の作曲家ペンデレツキ。「広島の犠牲者に捧げる哀歌」の、黒い雨を模したトーンクラスターが有名な前衛家。古スラブ語 で歌われ、東欧のキリスト正教の詩句が散りばめられたオラトリオ「ウトレンニャ~キリストの埋葬~」。静と動の格差が脅迫的に激しく、気がめいること間違いなし。新約や旧約以前 の原始キリスト教、原始ユダヤ教のむせるような神性が、獰猛なクラスター音の残響から臭い立つ、いけにえの肉っぽい音。

フィラデルフィア管弦楽団
ユージン・オーマンディ 指揮

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