忍者ブログ
 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
[67][66][65][64][63][62][61][60][59][58][57]

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「frank zappa/chunga's revenge(1970) rcd10511」 2009年5月30日 怨春


 さて、「チャンガの復讐」である。年代順では「鼬野郎」を先に紹介すべきであるが何となく。この頃になるとバンドとしてのマザーズは解散、次のジャズロック的な試みへの移行期間とも言われたりタートルズのフロー&エディをフロントに迎えたこともあってタートル・マザーズとの別名が与えられたりする時期であるがそうした演者の内情はこのアルバムにおいてどうでもよいだろう。実は、マザーズ解散~ホットラッツ楽団結成の間の、バンドメンバーが流動的だったこの時期こそが、ザッパ山脈において最もロック・バンド的な音を出しているという逆説が成り立っているのである。つまり、一般にザッパのワンマンと思われがちな彼の音楽史において、バンドメンバー各位が少なくとも持ち前の楽器に対しては独自の主導で以って平等かつ対等に発音する上で歯止めを利かしたり利かなくしたりするバンド音楽の粋が際立つ、まことに重要な時期である。これまでの、アンクルミートや鼬野郎までの、極彩色変態低迷サイケデリアを雑多な手法奏法編集法によって万華法華する試みから直接的には離れて、打ち水して、あくまでもロックのコードを、これまでのように壊す事無くその中で、バンド音楽を鍛錬しながら、ジャズもブルースも諸共に新しい音楽を生んでしまったのが、このアルバムである。アルバムではザッパ個人名義となっているが、確かにこれはザッパ個人の主権に留まらない、バンド音楽となっている。
 ライナーノーツにもザッパのコメントがあるので転載。「バンドとしての基本的なことが、このグループには存在している。グループとしての精神があり、個々のメンバーが自分たちは凄い事をしている気分になっている。表現の自由が与えられている。マザーズ・オブ・インベンションでは自分だけが聴衆に喋りかけていたが、このバンドではフロー&エディを中心にグループ全体が聴衆とコンタクトしている。聴衆とのコミュニケーションに多様性があるし、芝居みたいなものだ。そして何よりもエインズレー・ダンバーが叩いているからリズムがロック的だ」
 ところでその新しさとは、そう、アメリカにおける最初期の、へヴィメタルの誕生であった、とここに宣言したい。小生の知る限り誰も指摘しておらぬようだが、このチャンガの復讐こそは、アメリカによるアメリカ独自のへヴィメタルの始まりであった。既に前年、英国にてレッド・ツェッペリンが、突然変異のように形振り構わぬハードなリフを引っさげてメタルの生誕を打ち上げていた。その特異性については重大すぎるので後日に譲るが、ツェッペリンとはまた異なる方法で、ザッパは、メタルを発明したといえる。微分積分を、ニュートンとライプニッツがそれぞれ独自に構築したようなものであった。
 英国ツェッペリンのメタルと米国ザッパのメタルの差異は、ザッパの側から説明すると、ザッパ的メタルは、これまで論じてきたアメリカーナ・サイケデリアを出自としてその延長にある如何ともしがたい獰猛が、自ずとハードな表現に集中した結果の形振り構わぬリフ頼り、に尽きると思われる。英国のみならず欧州には、米国のような非空間的な、雰囲気作りのプロデューサーにさえも噛み付きかねない恩知らずの獰猛サイケデリアの伝統がなかったためメタルがサイケデリアを出自としようが無く、そうした意味でツェッペリンのハード、あるいはへヴィは容易には説明つかぬ突如と、ここでは言い置いておこう。そして、そうしたツェッペリンのへヴィを触媒とした可能性もあるが、兎も角ザッパとマザーズ残党らは彼らの樹立した真性サイケデリアの必然において、そしてこれまた継承されることは無かったが、アメリカーナ・へヴィ・メタルを生誕させたのである。 以上の意味で最重要アルバムであるからして、今夜は一曲ずつ丹念に聴き書きしたい。

1.トランシルヴァニア・ブギ
 いきなりの、ワルそうなギターのディストーションが、怪奇な変拍子と共に炸裂しながら当然のように走り行き、途中、ジャズ的雰囲気やブルースにも会釈しながら簡便に去る。後にメタルと確言されるであろうこのギターのワルさが、既にそのメタルという概念をとうに乗り越えている民族臭プンプンなのにモダン極まりないリズムを伴う様は、メタルという概念すら広まっていなかったこの当時どのように聴かれたのか皆目見当つかない。匹敵しうるのはジミ・ヘンドリクスのモダンのみである。ただ、ギター奏者としてのジミとザッパ、という比較は、いずれジミの作品紹介の時に長々としたい。

2.淑女の道
 ブルース。ザッパの良い声が堪能できる。ブルースを頭ごなしに力いっぱい叩きつければ、楽曲構成はどう聴いてもただのブルースなのに、へヴィメタルになってしまう、コロンブスの卵のようなナンバー。しかもザッパのへヴィであるから、文化継承の自信に裏打ちされないし、そうした裏打ちを拒否する人喰いの凶暴をきっちり吐瀉する。

3.20本の短い葉巻
 馬車に潰されて死んだカエルの美しい夢のような、アメリカの草野心平のようなインスト。

4.ナンシー&メアリー音楽
 何という土俗。朝っぱらから混乱したまま土で出来たようなサックスを吹き上げる。そしてびっこあるいは酔いどれのごとき、リズムのずれに頓着せぬドラムの、呂律の回らぬ凶暴な容赦ない連打。呂律の回るスマートな連中を叩きのめすようだ。諌めるようにしてザッパのワルいギターがへヴィにブルースの茶々を入れる。そのうち部族の者らの雄叫びが、ドラムというよりも地団太に近い煽りに煽られて上げ潮の連破となり、トランスの絶叫が最高潮になったかと思うと、相変わらずグズグズしながら猪突猛進だけは忘れぬドラムがリズムを無視して叩きまくられるなか、手数が過剰に多いギターが入り、いつのまにかジャズロック的まとまりも一応聞かせておく。祭りに飛び入り参加したキーボードがいつのまにか生贄あるいは司祭となってその身をロックの業火に燃やし尽くしながら熱となって消尽しても叫び続ける。

5.俺が好きだと言ってくれ
 へヴィ・メタル・アメリカーナの金字塔。この楽曲が、アメリカンメタルの発祥である。分厚いベース&ドラムによる噛み付くリフと、他愛無い歌詞をこれまた噛み付くように叫びきる余裕の無さ。一発一発が、聴く者の下腹を殴られるような、肉の痛みを知るへヴィなドラム、エインズレー・ダンバーの名を顕彰したい。確か、この当時も塗装屋が本業で、今も塗装業の傍ら熱いドラムを叩いている偉人である。

6.何だってやろうじゃないか
 打って変わってブリティッシュ的、特にキンクス的軽妙楽曲だが、演奏はやっぱりへヴィ。徐々に熱くならざるを得ぬメタルの宿命。

7.チャンガの復讐
 野蛮ながらダウナーに始まる。インスト。沈鬱な面持ちながら触れば何されるか分からぬ不穏な空気。そんな時、またカエル的な、どもりながら導くような喋るギターが音色を聞かす。おとなしそうでいて、だんだんに狂い、最早言葉を成さぬ廃人ぶり(インストなので歌詞は最初から無いが)。と、少しは言葉が分かりそうなギターが軽く煽るが、そうすると既に邪鬼と化したカエルのダウナーギターが真っ先に暴力で答える様は、肉を叩き続けるドラムの音が説明する。

8.パチパチパンチや(淋病)
 原題はthe clap。拍手や雷とかのパチパチ言う音の事のようだが、淋病の意味もあるようだ。ごく短いインスト。いろいろ叩いている。竹とか。

9.ルディーが一杯奢ってやるんだってよ
 下品な男たちの陽気なブルースポップロック。パーティーも終わりに近づき、無理に盛り上がろうとする情に厚い男たちが吐きながら肩組んで歌っている。

10.シャリーナ
 顔の異なる男たちが、正面を向いて、正直な気持ちを真顔で歌い奏する、滑稽で気持ち悪い有様。お別れの時間。

frank zappa:guitar, vocal, harpsichord, drum set, wood blocks, temple blocks, boo-bams, tom-toms, etc
ian underwood:organ, piano, rhythm guitar, electric piano, pipe organ, electric alto sax with wah-wah pedal, tenor sax
max bennet:bass
aynsley dunbar:drums
the phlorescent leech&eddie:vocals
john guerin:drums
george duke:electric piano&vocal drum imitations, trombone
jeff simmons:bass&vocal
sugar cane harris:organ

拍手[1回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

この記事へのトラックバック

トラックバックURL

忍者ツールズプロフィールは終了しました

HN:
々々
性別:
非公開

04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

ロック史最新記事

(03/03)

ブログ内検索

最新トラックバック

忍者アナライズ

Copyright ©  -- 仄々斎不吉 --  All Rights Reserved

Design by 好評ゼロ / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]