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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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「steve reich/different trains」 2008年7月5日 友引 便秘

 昨晩、重労働がこたえた体をしばらく暗闇に横たえ、蛸の刺身で晩酌傾ける自堕落のままにNHK芸術劇場、毎週オペラだの現代演劇などを長時間に渡って流す贅沢な番組であるが、何だか懐かしいかな、ミニマルミュージックを演奏していた。2ヶ月前のNHKホールでの公演の模様。中央ピアノの、灰色のキャップを被ったのはスティーブ・ライヒ。失礼ながら、まだご存命であったか、と思った。そういえばブーレーズはどうしているのだろう、調べれば分かることながら、億劫でもある。単簡なフレーズの単調な反復は各地の民族音楽に聴かれるが、、ライヒ、フィリップ・グラス、テリー・ライリーのアメリカミニマル3人衆が60年代に風靡させたミニマルは、どこまでも等速であることで高速へ走りこむが民族的共同体的祝祭的高揚を禁ずる抑制が統御する理性に価値を置く、作曲という概念に基づき古典から営々築かれた西洋現代音楽の立場を堅持している。
 
 初期ミニマルとして定置されがちなサティのヴェクサシオンの、音楽を速度からも解き放つ、はっきり制度に立ちはだかる破壊の内心や、ロシア革命前後に欧米各地で勃興したダダが半世紀近く遅れて戻ってきた感のある60年代アメリカのフルクサス運動の中で、例えばラ・モンテ・ヤングがやっていたような、90年代音響派的文脈においてドローンなどと呼ばれもする音の間延びとその重なりの、やはり世渡りが苦手そうな試みとは異なって、ミニマルは、後にマイケル・ナイマンやジョン・アダムズ、近藤譲らの叙情的展開をも許す軽やかさが世論には受けていたようだった。そうした流通性が80年代ポストモダニズム、ニューアカデミズム文脈で、やたらとミニマルミュージックを席巻させていたなあ、と、NHK聴取しながら素朴な感想を思った。この時代、文学も建築も美術もミニマルであった。ミニマルが、遊戯性と批評性と体制と反体制を超臨界させる差異と反復概念を、ファッションのようにあるいはファッショのように適用されて持て囃された挙句、その引き潮後に残ったのは反動的な物語肯定という無惨である。現代音楽が今更、調性回帰してどうする。昨今の、長年批評から否定されてきた怨念を晴らすかのような出版業界の、資本の論理の威を借りたなりふり構わぬ猛烈な村上春樹肯定には見苦しいものがある。
 
 と、そこへ、聞き覚えのある曲が演奏され始めた。ああ、different trains。持っている。日々物欲と対峙している数寄者の小生だから所有への衒いは無い。ミニマルな列車が、戦前から戦後を結んでいた。私たちは、長々と続く貨物列車を見るたびに、それには焼印される前の人びとが充填されており、そしてアウシュビッツ・ビルケナウへ続くものと、まずは黙祷しなければならない。
 またしても「悪魔のいけにえ」に入れなかったが、フルクサスに触れられたので少しは近づいたと思っていただきたい。いずれにせよ、ロックだけでロックを語ることは不可能なのだから。そういえば、ライヒが多用するマリンバのような打楽器、使い方は異なるがザッパの初期、中期の楽曲にも変態的アレンジでよく使われていた。

steve.JPG
steve reich/different trains・kronos quartet/electric counterpoint・pat metheny(1989)nonesuch wpcs-5053

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