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 ロック史を体系的議論から解き放ちながら、サイケデリアの土着性とハードロックの非継承性を論ずる。主要1000タイトル、20年計画、週1回更新のプログ形式。
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「悪魔のいけにえ」 2008年6月23日 赤口 空腹

 母国の言葉を禁じられた黒い民が、幾度もその誇りを奮い起こして脱走、反乱を企てながら白人の鞭と銃器で潰されていく突発を尻目に、生かさず殺さずの日々の奴隷労働の中から疼くようにして思わず絞り出された言葉に成らぬうめきが、まるで歌の、ブルースの起源であるかのように前週記載したが、それをいぶかしく思った読者もいるだろう。

 歌にしても音楽にしても、そして言葉にしても、その起源の存在を予め措定することは他ならぬ主体が構成する物語に過ぎず、かつ主体を保証する仕組みをも内在させる都合のよい物語であり制度である。しかしこれに抗うのも容易でないだろう、抗いも制度の弁証法に組み込まれる物語なのだから、と。

 分かりきったことを改めて言う、さらにそれを積み重ねることが何らかの展開をもたらす滑落があるやもしれぬと、丸山眞男の講義録をつらつら拾い読みするまでもなく希望しないでもないが、ここはただ黙るしかあるまい。ただ、思わずうめいた声ならぬ音が声へと承認されたり、半端なマッドサイエンティストが意識のフライング実験中にドラッグに絡んで開かれたドアdoorsがサイケデリアの始まり云々は、この際どうでもよかった、と記すに留めたい。(その半端具合も、ザッパの言うチープネス、あるいはスーザン・ソンタグの言うキャンプ、飛んでトマス・ピンチョンの諸作に通ずるかもしれぬから油断はできないが。)サイケのサイケたるを体現したザッパは自身のみならずメンバーにもドラッグを禁じたのは、人間のめまぐるしい意識ほどドラッグにまさるケミカルは無いことを知っていたからだし、プロレタリア独裁の名の下に振るわれた権力のように、夢の記述が権力化していったシュルリアリズム旋風にあってホアン・ミロは夢をカンバスに投影することを自らに禁じ、白昼の日常から混沌を見出す画家としての基礎を備えていた。

 さて、アメリカのホラー映画「悪魔のいけにえ」である。1974年、トビー・フーバー監督脚本。まだ音楽は遠い。サイケを語るにはこの映画がちょうど良い。時代的にはサイケ全盛からやや下るが、たいした問題ではない。藤子不二雄A先生もかつてこの映画を大絶賛しておられた。この映画はツタヤには置いてないだろう。10年前だったら、少しレベルの高いフタバ書店ソフトピアにはごくたまに置いてあったが、昨今のレンタル屋のソフトの質の低下著しく、インターネットで購入するしか鑑賞する手立ては無いかもしれない。アナログレコードからCDへ、あるいはVHSビデオテープからDVDなどへハードが移行するのはよいが、その都度ソフトの質が落ちるのは問題である。旧記録媒体の全てが一挙に新記録媒体に移るのは困難なのは致し方ないが、移行の際の選択の際に、目立たぬ傑作が振り落とされて歴史の藻屑と消える可能性が生ずるようである。音楽業界ではようやくここ10年ぐらいで、人知れず偲ぶしかなかった傑作の相次ぐCD復刻が進んでいるようであるが、それでも消えていった音源も多いだろう。音楽を景気づけ程度に聴く人はモバイルの発達のおかげでわざわざCDを買わなくなった半面、日々音楽と対峙している真の数寄者は、配信されて利益の出るようなコンビニ音楽では飽き足らずレコード、CDをきっちり買って聴く。その傾向にやっと気付いた音楽産業が続々CD復刻を打ち出しており、喜ぶべき良い傾向である。映像産業も見習うべきである。

 疲れたので今日はこれまで。次週、ブリティッシュマージービートをさりげなく無視しながら、「悪魔のいけにえ」を下地としてサイケデリアに肉迫します。洋泉社「カルト・ムービーズ」佐々木敦+キーワード事典編集部編 に、この映画が連なる文脈の詳細を論じた章がある。できれば予習されたし。乞うご期待。

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